PENTAX67Ⅱ + SMC 105mm / PORTRA 400

まもなくメロディーが流れる。長男がお昼寝から覚めて、泣き出す時間だ。

ぼくは長男の耳にそっとタオルを掛ける。そろそろ『夕焼け小焼け』のメロディーが流れる時間だ。街の電柱のいたるところに設置されている、グレーのスピーカーからそのメロディーは流れる。まるで、一日の終わりを告げるかのように。スピーカーから響き渡る音はタオルを突き抜け、長男の鼓膜を振動させる。

メロディーに反応して起床するときの長男は、とんでもない状態だ。尋常ではない泣きっぷり。顔を真っ赤にして、口を思い切り大きく開けて、涙は頬を滝のように流れる。とにかくひたすら、泣く。理由は『一日が終わってしまう』から。こうなってしまったら、落ち着くまで待つしかない。何気ない街のメロディーに、長男は敏感に反応する。

その日、メロディーが流れたが、長男は起きなかった。窓を閉めたのが功を奏した。いずれ、メロディーを聞いても泣くことなくやり過ごせるだろう。「そんなこともあったね」と、数年後に思い出すだろう。何気ない日常で長男の成長を感じる。なんだか今日は、父親のぼくの方が泣きたい気持ちになった。

長男のようにぼくは泣けない。気分を変えようと玄関を開けて外にでる。そのとき、太陽は刻々と方位を変えて、マジックアワーにさしかかっていた。大葉が太陽の光を全身で浴びている。完全にドラマの主役を演じていた。思わずカメラを持ち寄り、シャッターを切る。ほんの数分でマジックアワーは終わりを迎えた。今日も定期的に流れるメロディー。マジックアワーも世界のどこかで、美しいドラマを常に繰り広げている。

その後、長男は五歳を過ぎて、メロディーを聞いても泣かなくなった。相変わらず、ぼくは切ない気持ちになる。成長しないといけないのは、ぼくの方かもしれない。