息はできてる、声も聞こえる。


ぼくは、黄色と青が混ざり合ったような深い青い水の中にいた。真上には、海面が光を浴びて、小さな手裏剣のようにキラキラと光っている。

水面を眺めながら気がつく。僕のほかにもここには住人がいるようだ。彼らは、上の世界へと泳いでいる。いや、泳いでというか、浮かんで、登っている。という表現が近しいかな。浮遊しているともいえる。人の数は多いけど、満員電車に乗り込むかのように騒がしくはない。列は穏やかに、ポツポツと泡のように、それぞれのペースで上へと上がっている。そんな様子を観察しながら思う。

自分はこれから、どうしたらいい?さっきまで何をしていたか、思い出せない。これから先の未来はどうなる?考えても、わからなかった。

多くの人が迷いなく、流れを止めずに歩いていく姿をみつめる。この列に自分も並び、上を目指すこともできる。しかし直感的に違う気がした。自分は、この流れには乗らない。ここではないどこか、まだ見たことのない場所に行きたいと思った。その判断が正しいか、間違いなのかは分からない。

ここは海の中なのに、息ができる。声もでそうだ。「おーい」と住人たちに声をかける。誰も反応しない。多くの人が上にのぼるけど、下はどうなってるのか。考えたら、気になった。ぼくはこの海の底まで行ってみることにした。

正直、怖かった。でも勇気を出して一歩だけ進んだ。ヨッと、右足からふわっと身体を動かす。すると不思議で、左足もついでについてきた。そのあとは、振り子のように自動的に足が前に出てきて、まるで自動運転のように進むことができた。

海は、底は暗いのかと思いきや、視界はクリアだった。どこまでも澄んでいる。明るさは海面近くと比べても、潜ってみると、深海もあんがい変わらない。

さらに底へと潜っていく。色味は、シアンをひいてイエローが深く、濃くなってきた。沖縄の海に潜ったことはないけれど、近い気がした。きれいな色。景色をみながら下へとくだる。ふわふわと海の底へとたどり着いた。

海の底は様々な建物らしきものが立ち並んでいた。建物だと認識したのは、窓の存在。あかりが灯る。ここでも暮らしている人がいるようだ。窓の中には、机と椅子が見える。

世界はきっと、自分が体験した分だけ存在するのだ。そんな考えがよぎる。窓の中を覗き込み、ドアをノックした。反応はない。人影は見えなかった。部屋に入り、机に座ってみることにした。

そういえば、学校の宿題をやっていないことを思い出した。でも今はそんなこと、どうだっていい。これからの自分に起こるであろう出来事を頭の中で考えた。

座りながら、いつまでも、いつまでも考えた。