取材したのはまだまた暑い8月。白いシャツを羽織り、浅草の地を目指した。
開始時刻の30分以上前に最寄り駅に到着。近くにあるドトールのドアを開けて、地下鉄の冷房で冷えた身体を温めるために、ホットココアを注文。取材時のシミュレーションをする為だった。コーヒーを注文しなかった理由は、なんとなく身体が糖分を欲していたからだろうと思う。すぐ向かい側の席では、若い海外客の男性二人が座っている。私とは対照的に、半袖・短パン姿で涼しげな装いだ。深くペースボールキャップを被り、次に向かう目的地について、隣にいるバンドTシャツを着ている男性とおしゃべりをしている。途中、後ろからガラスが地面に叩きつけられる音が聞こえる。年配の婦人がグラスを落とし、地面に水をこぼした。幸い、グラスは割れなかったようだ。店員さんが「そのままで大丈夫ですよ」と声をかける。
そんな風に、自分はこうして緊張しているけれど、世の中は通常運転なのだ。だから緊張する必要はないということを、身の回りの環境から学ぶことになった。そのおかげで、これから取材に行くことへの不安はいつの間にか忘れていた。
取材先は、「昆虫食のTAKEO浅草本店」だ。事前にメールでアポイントを取った。ドトールの扉を開けて、取材先へ向かう。築60年のリノベーションした店舗の2階に位置する外観を引き気味に眺めながら、正面の入り口へ向かう。スライド式の引き戸を手にする。入り口は窓もなく、外観からは内部の状況が分からない。ドアを開いた先で自分は「取材をしっかり行えるだろうか」といった不安がよぎる。しかし、「のぞくだけでも大歓迎」と書かれた手書きの付箋に目がとまり、緊張していた気持ちは泡のように消えていった。大丈夫、と口角が上がったのを感じる。ドアをガラッと開けて、階段を登る。至る所に昆虫の形を模した装飾品やオブジェが鎮座している。
ついに昆虫食を提供するカフェに来た。レジ前で本日取材させていただく店長さんと簡単な自己紹介を交わして、丸テーブルに腰掛ける。店内では扇風機が首を振っている。その風が定期的に肌に当たるのを感じながら取材は始まる。インタビューは営業の妨げにならないように行われた。店内にお客さんが来たら、一旦取材は中断。注文の料理を提供し終えると取材再開。その繰り返しだった。おかげでゆっくりと店の雰囲気を感じることができた。
店内には既に、女性客が一人で席に座っていた。会話から察するに、遠方からお越しで、リピーターのようだった。女性の一人客も珍しくないのかと感心する。次に来られたのは海外客のカップル。「めっちゃタガメサイダー」を注文し、興味津々な顔つきでタガメを見つめる。「タガメは硬いけれど食べられます」と説明を受けると、二人で顔を見合わせて楽しそうに笑みを浮かべる。常連と思われる男性客は、店長さんと親しげに挨拶を交わし、机でノートを広げて作業を始めた。
取材中、取材のペラが扇風機の飛ばされるのを左手で抑えながら、右手にはペンを持ってメモをとった。準備8割、本番2割。準備の大切さを感じながら、取材は進んだ。
なぜ私はここに取材を申し込んだかというと、実はこの「昆虫食のTAKEO浅草本店」へは私の妻が別件の打ち合わせで既に訪れた場所であったからだ。妻から、昆虫食やこのカフェの話を聞いたときに、自分の「取材アンテナ」がピカッと反応する感覚を覚えた。「いつか自分も行って話を聞きたいなぁ」と、そう思っていた。そして昆虫食も食べてみたい。そう、本日の目的はふたつ。取材と、昆虫食を人生で初めて食すという、目標を掲げた来るべき当日だった。
取材・撮影を終えて、丸テーブルでひとやすみ。まだ営業時間内だったので、昆虫食を注文した。メニューを見ると昆虫を感じさせないメニューが揃う。昆虫食は初めてだが、エビ・カニ系の甲殻類アレルギーはない。メニューをペラペラとめくると、「コオロギアイスもなか」と目が合う。悩んだ末、初心者におすすめと記事で紹介している「タガメサイダー」ではなく、店舗限定のもなかを注文した。少し緊張しながらかじりつく。モナカのパリパリという音が響き渡る。味わってみると、コオロギのカリっとした食感と、甘塩っぱいしょうゆ味のソースが口の中に広がり、まさに絶品。アイスが溶けてしまわないようにスプーンで平らげ、密かに裏の目標を達成する優越感を味わいながら、当日の取材を終えた。
取材のお礼をレジ越しに伝えながら、タガメサイダーをお土産に購入。ボトルのサイズ感と、さりげないタガメのイラストが素敵だ。このお土産は、のちに事前告知のビジュアルとなる。本記事で使用しているサムネイル写真で撮影の被写体となっている。個人的な感覚ではあるけれど、いきなり昆虫食の記事を告知するより、前振りがあった方が良いかと思っての判断だった。
取材後に録音した音源を聞きながら記事を執筆する。その際、あることに気がつく。それは、「この食材は人々を楽しくさせる」という新たな価値観だった。昆虫は苦手だから、この記事は読まないと敬遠されてしまうのはもったいない。「美しい昆虫食もあります」、「こんなにも人々に愛されています」という方向性で記事にしようと考え、可能な限りグロさを感じさせない記事に仕上げた。
今回、取材した記事は地方創生メディア、「Mediall」にて公開となった。記事の公開は本当に「嬉しい」の一言に尽きる。取材に応じていただいた昆虫食のTAKEO店長の三浦さんに改めて、感謝をお伝えしたい。この度は本当にありがとうございました。
昆虫食の楽しさ溢れる食材の魅力が、少しでも世の中に広まりますように。