写真|CONTAX T2 / PORTRA 400

中学生のわたしは、運動靴もはかずに、裸足のまま外に飛び出した。走るたび、頭の後ろに束ねた髪が左右にゆれる。

外は、海が広がっていた。ここは、家の前だけど、海だ。ありえない状況だったけど、なぜか不思議と気にならなかった。

海は波紋をなびかせている。その海は、やわらかそうだ。右足から、ゆっくりと海にのせる。ピタッと海は足にくっついた。そうだ、これは地面だ。両足を海に乗せる。

大丈夫そうだ。ゆっくり体重をあずける。これなら、走れそうだ。わたしは走り始めた。

陸上を始めてから、ランナーである母をいつも、追いかけていた。試合に出るたびに、いつも母と比較され続ける。いつまでも追いつくことのできない、輝かしい、母の後ろ姿を見つめていた。そんな日々を繰り返していたら、気がつくと、わたしは走ることが嫌いになっていた。

海を走りながら思った。靴を履かないで走ったのはいつだろう。そうだ、運動会だ。「早く走れるよ」と、隣のクラスの足の速い、背の高い男の子から、裸足で走ることをおすすめされた事を思い出した。砂利は少しの痛みを足に与えるけれど、わたしは開放感に満ちあふれた。あの頃の記憶を、海は優しくわたしの素足を包み込み、思い出させてくれた。

海はどこまでも続く。途中、雲の階段をみつけた。階段をのぼる。高台から海を眺めることにした。歩道橋ほどの高さから眺める海は、太陽の光が道しるべとなり、水平線をきらきらと照らしていた。光が反射した水面は美しかった。海の様子を高台から眺める。しばらくして、ママらしき人物を見つけた。聞こえるように、強く叫ぶ。「ママ、待って!」

呼びかけに応じ振り返った女性は、ママではない、別の女性だった。清々しい顔をしている。なぜか、靴を履いていなかった。ふと、彼女は自分であるような気がしてならなかった。その瞬間、「これは夢だ」と思った。女性はわたしを見つけて、にこりと微笑む。

まだ、夢が現実へ移り変わる様子はない。女性はそのまま後ろに振り返り、何かを目指して進んでいく。いつかは覚めてしまう夢のなか。わたしは夢が覚めたら、ママを追うことをやめようと思った。

わたしは毎日、同じ夢をみる。